独奏者と指揮者に今回の演奏会の曲目についてインタビューしました


木理恵子 
×
 原勇一
~まず指揮者の萩原さんに、今回演奏される前半のプログラムについて語って頂きます。今回のプログラムは、アマチュアではあまり演奏される機会のない曲が並んだという感じがしますが、このプログラムをご覧になってどんな風に感じられますか~

(萩原さん)オーケストラの考え方と気持ちが良く表れたとてもいいプログラムだと思います。コンチェルトで閉める、というのがとても真面目な、だけど純粋に音楽と向かい合っているという姿勢が伺われる感じがします。
 
 ベートーベン節満載ですよ







●ベートーヴェン
  「プロメテウスの創造物」序曲 作品43

~題名にある「プロメテウスの創造物」とは何のことでしょうか~

(萩原さん)プロメテウスというのはギリシア神話に出てくる火を盗んだという神様ですよね。その創造物と言われるだけあって烈火の如く、曲中のffとppの対比にそれが現れています。


~この曲の聴かせどころを教えて下さい~

(萩原さん)初期の作品ながら既にベートーヴェン節満載ですよね。若いながらもひらめきに満ちていて、ベートーヴェンの天才さを感じます。その後につながるロマン派へと向かうベートーヴェンの情熱が表れているようにも感じます。
●ハイドン 交響曲第101番 二長調「時計」

~ハイドンは音楽史上でも重要な作曲家なのに、今ひとつ影が薄いように思われますが…~

(萩原さん)本当にそう思います。過小評価されすぎですよ。これ、特に日本における特徴ではないでしょうか。小洒落れていて高尚な、貴族受けのする音楽は日本人にはあまり好まれないのかな。一度その扉を開けてしまうと、もうそこから逃れられないようなそんな魅力を持った音楽ですが、でもその扉を開ける機会が日本では少ないんじゃないかな。


~1楽章の序奏。何か不気味な感じがするのですが~

(萩原さん)ハイドンはあえてもったいをつけるような序奏をつけることがあります。そのあとにジョーク連発の音楽を繋げたんですよ。もしここがなかったら、軽い音楽になってしまいますから。また、あの当時ハイドンの音楽を聴いたのは、庶民ではなくて貴族でした。音楽に集中しない人に対して耳を引くためにもこういう序奏を置いたんでしょう。


~速いテンポになってからはどんな特徴があるのでしょうか~

(萩原さん)律動感あふれるところで突然パウゼがあって止まったりして…先ほども言ったように音楽に集中しない人に対しては、変わったことをしないと振り向いてくれないので、人を黙らせる仕組みは多いと思います(いい意味で)。音楽の魅力を知り尽くしているハイドンの手法。肩の力が抜けますよね(これもいい意味で)。


~第2楽章は、有名な“時計”のモチーフが出てくる楽章ですね。正確に時を刻むような~

(萩原さん)でも、働きたくない“時計”ですね。いつも正確というわけではなく、時計だってくたびれているときもあるし。(笑)いろいろな部品で構成されている時計のように、いろいろな個性で構成されている。8分音符が「正確にリズムを刻めよ」と言っているのに、きれいなメロディーがスルリスルリと逃げていく様に感じるんです。


~3楽章はメヌエットですよね。萩原さんのイメージではどのような音楽なのですか~

(萩原さん)まさにウィーンの音楽です。優雅とでも言いましょうか。純粋に音楽を表現しているハイドンが見え隠れします。そして途中で出てくるトリオ!こんな曲、他の人では書けなかったでしょう。聴く人を飽きさせないハイドンのアイデアではないでしょうか。弦楽器は和音を一切変えず、フルートだけが響きを変えていく。そこに金管楽器も交えて合いの手を入れる。あのトリオはハイドンのサービスですね。


~第4楽章は比較的短いように思われるのですが、どんな楽章なのですか~

(萩原さん)短い中に、曲想ががらっと変わったり、フーガが出て来たりと、変化の大きい楽章で、ハイドン語法が目一杯盛り込まれた曲です。「主題は逃さずに変奏がこんなに出来るんだ、俺はこんな手法で変奏できるんだ」と。

~最後にお客様に、ハイドンの魅力を再度お願いします~

(萩原さん)笑顔で聴いて下さい。そしてぜひともワクワクして聴いて下さい。私たちもワクワクするような演奏を目指します。
ハイドン
扉を開けてみて!





















































 ヴァイオリン協奏曲の最高傑作












































●ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61

~名曲と言われるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が演奏会に取り上げられる機会が少ないのはなぜでしょうか?また、この曲に対する想いなどもお聞かせください~

(鈴木さん)ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、数あるヴァイオリン協奏曲の中でも最高傑作と言われますが、「意外なほど演奏される機会は少ない」とも言えるかもしれません。曲の長さをとってみても約45-50分という大作であるということもありますが、演奏すること自体が技術的に難しい上に、精神的には自我の極限を超えるような精神力を要求されるということが、大きいのかもしれません。

自我が出てしまうと曲の素晴らしさを壊してしまう、そしてまさに自分の内的なものの全てがさらけ出されてしまう。演奏するにはかなりの勇気が要るとも言えますが、また、この最高傑作の偉大な音楽に身を委ねたいという様々な気持ちが葛藤、交錯するからこそ、なかなか踏み切れないのかもしれません。また同時に、私をはじめ全てのヴァイオリニストにとって最終的に目指したい、大きな目標である究極のヴァイオリン作品かもしれません。

ヴァイオリンパートもオーケストラパートも無駄をそぎ落とし、シンプルな中にも追い求めれば追い求めるほど曲の奥深く、奥深くへと入っていく、それこそが名曲中の名曲と言えるのではないでしょうか。

第3交響曲「英雄」後、第4交響曲と同時期に作曲されたベートーヴェン唯一のヴァイオリン協奏曲は、激しさよりもヴァイオリンソナタ「春」や交響曲第6番「田園」のような穏やかさに終始包まれ、第2楽章など、深い祈りを捧げるかのようです。


~どういうところに気を付けて演奏をされていますか?~

(鈴木さん)やはり自我がでないように、曲の素晴らしさを極力壊さないように、忠実に表現をできるようにと心がけています。


~この曲の難しいところは?~

(鈴木さん)冒頭から最後までの精神力でしょうか。


~ザ・シンフォニエッタ、および聴衆の方へのメッセージをお願いします。

(鈴木さん)ザ・シンフォニエッタの皆さんは、音楽を愛し、慈しみ、生き生きと演奏していらっしゃる素晴らしいオーケストラです。
幸せなことに、今までの人生の中で何度か演奏させていただいたことがあるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ですが、弾けば弾くほど、その偉大な曲に圧倒されます。

今回、素晴らしいザ、シンフォニエッタの皆さんと、今回初めてご一緒させていただく指揮者の萩原勇一さんと共に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏出来る事を幸せに思い、そして心より楽しみにしております。

ご来場いただきました皆様にも、曲の素晴らしさを少しでもお伝えできますように、心をこめて演奏させていただきたいと思っております。お楽しみいただけましたら幸いです。