第19回演奏会

2006.3.5

指揮者 藤崎 凡
独奏者  
演奏曲  モーツァルト 交響曲第31番ニ長調「パリ」
カバレフスキー 組曲「道化師」
ベートーヴェン 交響曲第4番変ロ長調
パンフレット

出演者
コンサートマスター 大宮伸二
第1ヴァイオリン 浦中有紀、清永健介、定永明子、瀬畑健雄
谷口博文、東家容子、益田久美、山口修史
第2ヴァイオリン 大宮協子、岡本侑子、清永育美、武智久子
多賀美紀*、丁 睦美、中島悦子、廣瀬 卓
ヴィオラ 和泉希代子、太田由美子、田代典子、辰野陽子*
中澤康子、山下純子
チェロ 石垣博志*、関 栄、瀬畑むつみ、東家隆典、松本幸二
コントラバス 井形友子*、田中真紀、歳田和彦、中川裕司*
フルート・ピッコロ 泉 由貴子、中澤邦男
オーボエ 橘 徹、松本聡子*、吉田千草
クラリネット 岡村クミ、府高明子
ファゴット 柴田義浩、星出和裕
ホルン 伊藤友美、川崎華奈
トランペット 出口文教、福島敏和
トロンボーン 寺本昌弘*
チューバ 府高 隆*
ティンパニ 福島 好*
パーカッション 大迫貴子*、田中集子*、森野照美*、山中美雪*
ピアノ 篠原いずみ*

*賛助













































 

交響曲第4番変ロ長調Op.60(ベートーヴェン)

生涯を独身でとおしたベートーヴェンではあるが、周囲にまったく女気がなかったわけではない。それ
どころか、女弟子の一人だったテレーゼ・ブルンスヴィックとは結婚の約束を交わしたことさえあった。
しかしなぜか実現せず、けっきょく独身生活をとおす結果となったのである。このテレーゼの妹で、ダイム
伯爵夫人となったヨゼフィーネとも、ひところはただならぬ仲だったとされるが、例の「永遠の恋人への
手紙」は、このヨゼフィーネへのものだったと、こんにちでは考えられている。ほかに、この姉妹の従姉妹
に当たる、ジュリエッタ・ギッチアルディも、ベートーヴェンは愛していたという。恋多き大作曲家だったの
である。
 この交響曲が書かれた1806年は多作の年だった。ピアノ協奏曲第4番Op.58、ヴァイオリン協奏曲
Op.61、それにOp.59に属す3曲の弦楽四重奏曲などがこの年の収穫である。この前々年には「ワルト
シュタイン」Op.53、前年には「熱情」Op.57と、2曲の偉大なピアノ・ソナタが立て続けに書かれた。なかん
ずく、ベートーヴェン唯一のオペラである「フィデリオ」が生まれたのは、第4交響曲の前年、「熱情」の年
なのである。第3交響曲あたりから、堰を切ったように傑作の奔流が流れ出すのだが、この時代は一般
に「ベートーヴェンの傑作の森」とよばれている。
 この時代にベートーヴェンが愛していたのが、テレーゼであったか、ヨゼフィーネであったかは微妙な
ところだが、「書簡集」の解析によって、こんにちでは、すでにダイム伯爵未亡人となっていた後者が
本命だったと考えられている。この未亡人がなにゆえベートーヴェンと再婚しなかったのかは手紙から
想像するほかないが、恐らく女性の側から、子供のことを考えて、去って行ったのだろう。
 男性的で、意欲にあふれた「エロイカ」の後に、どちらかというと保守的で、女性的な優美なムードの
漂う第4交響曲が作曲されたのには、ヨゼフィーネとの再会と恋愛がかかわっていたかもしれないと考え
られる向きがある。こじつけにならない程度にとどめておきたいが、こうしたベートーヴェンと女性との
関係が作品に反映していると見られる曲としては、「テレーゼのソナタ」とよばれるOp.78の嬰ヘ長調の
ピアノ・ソナタとか、ジュリエッタに献呈された「月光」の異名を持つ嬰ハ短調のソナタなどがある。
 急緩急急の4楽章で構成されたこの古典的たたずまいの交響曲では、「スケルツォ」とは明記されて
いないが、明らかにスケルツォ楽章である第3楽章のトリオが、「ちょっとテンポをおとして」となっている
のが興味深い。こうした形は、後にロマン派の交響曲でのスケルツォの定型のようになったのである。
ロマン派の先取りということでは、このスケルツォには、トリオが2回出てくるのが目立っている。結果と
して、ABABの形となるが、もし2番目のトリオに別な楽想を入れれば、ロンド形式のようになる。
 序奏部つきのアレグロ・ソナタ形式の第1楽章に、同じくソナタ形式ながら、展開部が省略されている
アダージョ楽章が続く。このあたりは初期のスタイルを感じさせるが、活気に満ちて喜びはねまわるよう
な楽想のフィナーレもソナタ形式。ここには、第7交響曲とか第8交響曲とかのフィナーレと、最初の2つ
の交響曲のフィナーレの間を埋める、ベートーヴェンの典型的ハッピー・エンドの形が認められる。深刻
重厚なベートーヴェンは実はむしろ特別の状態なのである。