第17回演奏会

2003.10.26

指揮者 藤崎 凡
独奏者 小野富士(Vla)
演奏曲  ディーリアス 楽園への道
ウォルトン ヴィオラ協奏曲 
ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調「運命」
チラシ パンフレット

出演者
コンサートマスター 清永健介、廣瀬 卓
第1ヴァイオリン 大宮伸二、岡本侑子、定永明子、瀬畑健雄
東家容子、山下純子、山田容之
第2ヴァイオリン 浦中有紀、清永育美、丁 睦美、中澤康子
中島悦子、古市敬子、山口祐子
ヴィオラ 和泉希代子、太田由美子、城野加代子、田代典子
辰野陽子*、奈須慎也*
チェロ 石垣博志*、関 栄、瀬畑むつみ、東家隆典
コントラバス 桑原寿哉*、歳田和彦、中川裕司*
フルート・ピッコロ 泉 由貴子、田島公敏、中澤邦男
オーボエ 石田栄理子*、橘 徹
イングリッシュホルン 吉田千草*
クラリネット・バスクラリネット 岡村クミ、府高明子
ファゴット 柴田義浩、星出和裕
コントラファゴット 蓮沼 昇*
ホルン 伊藤友美、奥羽朋子*、川崎華奈、田中禎子*
トランペット 出口文教、福島敏和
トロンボーン 佐藤奈々絵*、寺本昌弘*、右田順二*
ティンパニ 福島 好*
ハープ 矢澤みさ子*

*賛助







































楽園への道(歌劇「村のロメオとジュリエット」より)(ディーリアス)

 スイスの作家ゴットフリート・ケラー(1819〜1890)の小説「村のロメオとユリア」に基づいた「村の
ロメオとジュリエット」はディーリアスの第4作。互いに愛し合う村の少年サリーと少女ヴレーヘンは、親
たちの反目からこの世で結ばれることができず、小舟に乗って死の旅に就く、というストーリーで、この
「楽園への道」は初演後、オペラ終幕前に演奏される間奏曲に基づいて改変された作品。楽園という
のは、もちろんふたりがあの世で到達する場所のことだが、オペラにもそう呼ばれる村外れの荒れ果
てた館と庭園が登場し、決死行に出掛けるふたりがその楽園への道を歩くこととのふたつの意味が
かけてある。
 曲の冒頭は、ファゴット、ホルン、イングリッシュ・ホルンによるワルツのようなレントから開始され、
弱音器つき弦の伴奏にのってオーボエの旋律が出る。
















































ヴィオラ協奏曲(ウォルトン)

 イギリスが生んだヴィオラの名手ライオネル・ターティスの独奏を想定して、1928年から29年に
かけて書かれた作品である。ターティスからは演奏不能として突き返されてしまうが、BBCの音楽
部長であったエドワード・クラークがパウル・ヒンデミットと交渉。1929年10月3日にロンドンのクイ
ーンズ・ホールで、ヒンデミットの独奏、作曲者指揮、ヘンリー・ウッド交響楽団によって初演が行わ
れた。客席に座っていたターティスは、そのすばらしさに自分の不明を恥じ、さっそくレパートリーに
加え、同曲初のレコーディング(もちろんSP録音)も行っている。また、レパートリーが少ないという
問題がついてまわるヴィオラ奏者の間で愛奏されるようになった作品でもある。
 第1楽章、アンダンテ・コモド(歩くような速さで、気楽に)。プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番
からの影響が指摘されるこの作品の第1楽章は、ソナタ形式の緩徐楽章から始まる。導入部に続いて
独奏ヴィオラが表情的に第1主題を歌い出し、やがて豊かな情感が漂う3分の2拍子の第2主題が
提示される。展開部のラストの部分で独奏ヴィオラが休んでしまう点もユニークだ。独奏ヴィオラが
再現部を導き、2つの主題が簡潔に再現される。
 第2楽章、ヴィーヴォ・コン・モルト・プレチーゾ(生き生きと活発に、非常に正確に)。スケルツォに
あたる楽章で、変則的なロンド形式で書かれている。「非常に正確に」という指示は、1/4、3/4、
3/8、5/8といった具合に変転する不規則な拍子に対して付されている。途中、鋭いメロディ・ライン
やジャズ風のシンコペーション・リズムを伴うテーマなども出現し、最後は唐突に楽章が閉じられる。
 第3楽章、アレグロ・モデラート(適度に速く)。ファゴットが乾いた感じがする第1主題を提示し、独奏
ヴィオラとオーケストラの対話などを挟んで、もの悲しさが漂う第2主題を独奏ヴィオラがリリカルに紡い
でいく。展開部では模倣進行、カノン、テーマの拡大などが施され、エピローグでは独奏ヴィオラが
第1楽章第1主題の一部を奏で、静かに余情を残しながら、沈黙へと回帰していく。




































交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」(ベートーヴェン)

 1808年に、第6番「田園」とともに初演されたこの「第5番」は「運命」という題名と一緒になって、
あまりにも有名である。ベートーヴェンはこの曲を38歳の円熟期に作り上げた。
 この「第5番」の中には、音楽のすべての要素が透き間なく凝縮されて収められている。ベートーヴ
ェンの音楽は、いずれも推敲が重ねられて無駄なものは含まれていないが、この曲ほど見事に凝縮
されているのも珍しい。人間の喜怒哀楽の感情と、音楽の美しさとを融合させたこの曲は、確かに、
人間の創造した芸術の中で最高のランクに属する輝きを放っている。
 「運命」という題名は、ベートーヴェンが付けたものではなく、曲の最初の4つの音符について、弟子
のシントラーに「運命はこのように扉を叩く」と語った逸話によるとされているが、これは、特にわが国で
知られていることで、他の国ではこの題名はあまり使われていない。しかし、耳の病に取り付かれた
ベートーヴェンが、生を選ぶことによって死神を追い払った強い意志の力を、この曲の中に見いだすこ
とは間違いではない。だが、それ以上に、この曲は「音楽」としての多くの魅力をもっている。
 「第5番」の骨子になっているのは、最初の4つの音符であり、ベートーヴェンは、それまでの音楽の
主役であった旋律の代わりに、旋律のもとになっている動機(モティーフ)を積み重ねることによって、
より緊迫した音楽作っている。さらにベートーヴェンは、第3楽章のスケルツォの再帰部を、全く新しい
姿に変えて、「歓喜」を表す第4楽章に劇的なブリッジで結ぶというユニークな試みを使っている。この
ほかに、この「第5番」には、いたるところにベートーヴェンならではのアイデアを盛り込むことによって、
「交響曲」という形式的な音楽の中に、「美しさ」だけではなく、聴く人の心に直接訴える感動を音として
現すことに成功した。この曲が、以後の作曲家に与えた影響は大きく、ワーグナーも「第9番」とともに
熱愛し、彼の演奏会でしばしば取り上げ、指揮している。
 第1楽章、アレグロ・コン・ブリオ、ハ短調、4分の2拍子、ソナタ形式。特徴のある劇的な4つの音符で
始まる。指揮者もオーケストラも、そして聴き手も最高に緊張する瞬間である。この動機を積み重ね、
畳み掛けるような緊迫した進行。決然としたホルンの響きに先導されて第2主題が弦で美しく歌われる。
劇的な再現部の後に出るオーボエの旋律は極めて印象的。再現部に続く楽章の結びの部分の壮大な
全合奏は、音楽を聴く興奮を十分に味わえる見事なところである。
 第2楽章、アンダンテ・コン・モート、変イ長調、8分の3拍子。変奏曲形式で作られたやすらぎにあふ
れた楽章。しかし、途中で巧みな曲想の変化は、ただの美しい変奏として聴くわけにはいかない。
 第3楽章、アレグロ、ハ短調、4分の3拍子。チェロとコントラバスの神秘的な旋律が不気味に鳴り、
曲は暗い影をおとす。再びホルンのシグナル。最初の動機によるこの響きによって音楽は高潮していく。
トリオ(中間部)は荒々しいチェロとバスによる動き。ブラック・ユーモア的である。スケルツォが帰ってく
るが、それは全く楽器を変え、弱奏で不安におびえているようである。そして、曲は第4楽章へのブリッ
ジに差し掛かる。ティンパニの弱奏に乗っての劇的なこの部分から第4楽章への展開は見事だ。
 第4楽章、アレグロ、ハ長調、4分の4拍子。全合奏による雄渾な凱歌。曲は更に力にあふれた第2
主題とともに進む。そして明るい展開部の途中で急に第3楽章の思い出。この対比はその後の曲想を
更に華麗豪壮にして堂々とした終結になる。